「人の喜ぶところに栄えあり」
日系企業の発展と未来の人材づくり

ベトナムで着物の縫製を行う委託加工貿易を展開する「日本和装ベトナム」は、日本和装ホールディングスの「無料きもの着付教室」のノウハウを活かし、2019年9月、人材紹介ビジネスを行うためのライセンスを取得。独自の企業理念や取り組みを聞いた。

ベトナム人の雇用に繋がった
工場オーナーの募集

――ベトナムでの事業について教えてください

吉田 私はこれまで日本国内で約30年間着物業界に携わり、和服や和装品の販売促進業や縫製の教育指導、売買契約の仲介業を行なってきました。しかし、日本では職人の高齢化で着物を縫製できる人材が縮小しています。もともと着物の縫製業は、30年ほど前に先人たちが日本からベトナムに技術を持ち込み、ひとつの工場にベトナム人を300~400人ほど雇用して縫製業を行なっていました。しかし、弊社がベトナムで事業の準備を進めていた2011年頃はすでに出荷数が減少。そこで、先人と同じやり方ではなく、独自の事業を展開しようと考えました。

――どんな戦略がありましたか?

和裁技術を競う「WASAI NTC CUP」を開催。バイクなど景品も用意される

吉田 ポイントはベトナム人にベトナム人を雇用してもらうことです。縫製工場へ視察に行った時、ひとつひとつ作業の島があることに気づきました。それぞれにリーダーがいて、他のメンバーを束ねている。その島ごとが会社になったら面白いんじゃないかと考えました。独立できる職人に自ら小さな工場を作りオーナーになってもらい、弊社が縫製を依頼する。すぐに「着物縫製の独立工場を作りませんか?」という広告を打ちました。ベトナム人は独立意欲が強いので、期待通りの応募がありました。最初に名乗り出てくれたオーナーとは今でも取引があります。

ただし、気の緩みは縫製技術に出ます。契約の前に厳しい規定を提案しました。作業場の照度、洪水の被害を受けない道路面からの安全な距離、エアコンの数、換気状況などをチェックしました。弊社は検品に非常に厳しい基準を設けているので、基準に満たない時は「オーナーなのだから、もっとプライドを持って仕事をして欲しい」と伝えたことも。時々工場に足を運び、作業環境も確認しています。その代わり、報酬は他社の平均の2倍以上の金額を提案しています。人のやる気を出さないと、いいものはできないと考えたからです。お陰様でお客様には日本一の満足度と言っていただけています。昨年は年間約1万4000枚の取引がありました。

社員、取引先の職人たちが
安心して仕事をするために

日本和装ベトナムの社員。研修で経験を積み、その後独立して工場オーナーになる人も

――独自の取り組みは?

吉田 日本から着物の縫製を受注し、ベトナムに空輸してまた日本に送り返す。このような長い工程があるため、弊社ではすべての商品に保険をかけています。これは工場のオーナーや職人が安心して作業をするためのものです。

また、新型コロナウイルスの影響で日本からの加工需要が激減したことを受け、弊社では休業補償を決定しました。社員には休業補償として給与の50%以上を支払うことにし、12社の取引先には月1000万VNDの金銭補償、下請け工場の職人は弊社で行う研修に参加した場合、日当をお支払いしました。遠くからたくさんの職人がきてくれて嬉しかったですね。

私は社員や取引先に会社の情報は開示するべきだと思っています。そして、決まったことは納得してもらえるまでしつこく伝えるようにしています。フェイスブックの動画に力を入れているのもこのようなことが理由です。

――最近の取り組みを教えてください

吉田 弊社はローカル資本の入った日本和装トレーディングを設立した後で設立した100%外資企業ですが、2018年から「ティーチャーズ(Teachers)」と言う新規ビジネスを立ち上げて人材養成を行なっています。これは、“教えて伝えて流通を促す”という日本和装ホールディングスの「きもの着付け教室」のノウハウを引き継いでいます。内容としては、ベトナム人に無料で日本語を教え、日本語で会話できる人材を育て、企業に紹介する人材紹介事業です。ベトナムで人材紹介のライセンスを取るのは難しいのですが、9ヶ月間かけてやっと取得しました。このビジネスはすでにカンボジアで始めており、今後はミャンマーやタイなど、東南アジア一帯に発展させたいと考えています。日本でビジネスをしている人たちがこの先、ベトナムをはじめ東南アジアに降りてくるでしょう。その時に必要な人材を、今から育てたいというのが今後の展望です。ベトナムはコロナに打ち勝ったという実績が生きてくると思います。一方で、弊社はもっと日系企業の人気や株を上げたいと考えています。そのために、優秀な人材が正当な収入を得られるシステムを築き、日系企業が人材に困らないような未来をつくりたいですね。

COMPANY INFO
2013年3月設立。ベトナム国内における和服縫製に関する生産管理コンサルティング業や小物などの企画デザインおよびコンサルティング業を行う。「きもの100万人プロジェクト」や和裁コンテストなどを企画し、着物業界全体の盛り上がりを目指している。
代表取締役 社長 吉田 重久
SHIGEHISA YOSHIDA
1962年生まれ。1984年に個人事業を創業。1987年に「無料きもの着付け教室」を開始し、着物の販売仲介業というビジネスモデルを確立させる。2013年に子会社の「日本和装ベトナム」をホーチミン市に設立。現在は「日本和装ホールディングス」代表取締役会長を兼任。